共学驚愕学園(撮影監督)


 共学の撮影監督として私は何をしたのでしょーか? 今や中年の懐古趣味ですが、よろしければお付き合いください。

 一番の貢献は現像所通いでしょうか。調布市柴崎のフジカラー現像所は、調布駅で各駅に乗り換えて布田、国領の次の柴崎駅から歩いて10分強。制作初期の最初の頃は多くて週1ペース。修羅場になると毎日でしたが、どの位の割合で自分で行ったでしょう? 記録しておけば良かったですかね。朝行って、急ぐときはその日の午後に取りに行っての繰り返しでした。夏場は生田の冷房付きアパートを撮影所に提供してもらいましたが、徹夜の撮影後に自転車で柴崎に行って、一旦八王子のアパート(というかその頃は6畳プレハブ)に帰って暑い中一眠りして、午後また自転車で取りに行って、八王子に帰ってからエディターで見てみるかどこかに届けるか。という毎日でした。1年下の進行だったM井クンがバイクで生田に行くときに自転車で並走したり。巡航速度30kmですから。体力と根気のしょーぶでした。

 「引き」の手法を変えましたね。ぱれーどの頃はベニヤ板に1m位のボルトをベアリングで取り付けて、ナットに固定したプラ板の先にタップをつけて、そういうボルトを平行に3本取り付けた「引き台」を用いてました。共学も最初はそれで引いていたのですが、引きの最初と最後のフレームを確認して、その位置とそのカットの秒数から1k毎の回転角度を割り出して、それが1と1/5回転とかだったりするんですが、最初と最後の位置まで動かすのにボルトを延々手で回すのがどうしても好きになれませんでした。あと、ボルトが少しだけ湾曲しているため、セルが進行方向に対して垂直方向に少しだけ波打つように動いてしまうんですね。ですから映像を見るとそういう引き台を用いたカットは微妙にセルがブレます。で、どうしたかっつーと、大きなプラ板の台に金属スケールをその度に両面テープで貼り付けるという方法にしました。仕上がったセルがどこまで塗ってあるかとか、背景の大きさとか、タップの位置や引きの方向などでセッティングの順番が全て違うため、最初の頃は私しかセッティングできませんでしたが、次第に他の人もできるようになりました。引き台でできたんですから当然といえばそーなんですけど。
 この方法だと、引きの最初と最後の位置決めの確認がとにかく楽ですね。スーっと動かすだけで済みますから。あと、ボルトの引き台に比べて凄く直線的に動きます。そのブレ具合の違いは素人でも判るのではないでしょうか。共学のカットでいうと、最初に飛行船が現れるカットは金属スケールで、次の次にズームバックして街の全景が見えるところは引き台です。あとは、廊下に立たされてから2人が座って、窓の外に視線が移るカットが引き台です。苦労するのは、ゆっくりな引きがしにくくなったことですかね。金属スケールには0.5mmの目盛りがあるのですが、その目盛りがちょうどずれるのが0.25mmで、その半分まで、つまり少しズレる、ちょうどズレる、また少しズレる、ぴったり合う、という繰り返しが限界で、それが0.125mmで引くということになるわけです。共学は1秒24kでしたから、1秒に少なくとも3mmは動くわけで、費用節約のためB6サイズのフレームも半分位ありましたから、そんなカットで引きだと結構な速さで動くわけですね。確かにボルトの引き台だと、1/8回転とか、ナットが6面ですからその倍の1/12回転ずつとかやっていたような気がします。まぁ、賛否両論あったと思いますが、私が撮影監督ということで、私がやりやすいようにやらせてもらったわけです。

 引きについてはあと一つ、普通は動き始めとか動き終わりもいきなりというのが多いのですが、例えば共学の冒頭でチャイムが鳴って時計から2人のところにパン・ダウンして猫を連れていくカットの引きでは、最後にブレーキをかけたようにして引きを止めています。これが実際の視線の動きに近いので、一人悦に入っていたのを覚えています。

 共学は実生活に近い描写でしたし、作画監督の並外れた力量による作画の魅力もあって、特に撮影技術に求められるものは多くなかったのです。ぱれーどで多用した透過光は、暑い時期の撮影に懲りたスタッフも多く、共学では僅かに2カットのみでした。そのうちの1カットは1コマのみです。(でもその1コマが必要不可欠なんですね。)あとはスーパーと半露出とWラシが数カット、フェードイン、フェードアウトも数カット、オーバーラップは無かったかも。そうすると、撮影監督の役割って何だったのでしょうかね。
 確かに特殊効果のように目に見えるはっきりとした手法は他の作品よりも少ないでしょう。でも、上記の引きでの工夫のように、はっきりと分かる効果ではなく、細かい所での配慮はいろいろしたつもりです。それに、後半の追い込みでは作画が不備でも撮影をこなさなければならないケースが増えてきて、フィルムでは分からなくて当然ですが、そういう対応をしたことが当時は非常に重要だったんですね。例えば廊下で立たされた後にちゃっかりと座っていた主人公とA子(頭に花を咲かせる子)が立ち上がるカットですが、主人公のセルは撮影の段になって背伸びをする最後の数枚が見当たらないことが分かりました。で、伸びきったところまでで少し止めて、そこから2,3枚戻すように撮影し脱力した感じを表現しました。本来の動画ではどうなっていたか今となっては覚えていませんが、あのカットにはそういういきさつがあります。象がバットを振るカットでは、ラインテストは全て1枚あたり2コマだったのですが、本撮影では私が独断で途中の数枚を1コマにしてしまいました。1枚は全て茶色のセルがあって、バットのアップなんですが、その前後を1コマにして速度感を出したわけです。前述の1コマの透過光も演出からの指示はなかったと記憶してます。終盤で主人公がA子の手鏡を持っていたことに気付いて(でも、なんで主人公のコートに入っていたんでしょうね?)取り出すカットですが、いろんな想いの交錯する場面ですから、何とか一工夫欲しかったんですね。鏡にスーパーは入る予定だったと思いますが、途中に1コマだけ透過光を入れるよう作画担当者に伝えたわけです。あの1コマの透過光に気付く人はどの位いるでしょうか。それから大した作業ではないのですが、そのスーパーの原画も描きましたね。そういう点もあって、私にとってはお気に入りのカットです。
gallery HANE / Animation / Kyougaku / Filming (2003.09.06)